August 31, 2012

ずぶ濡れになる事情もある。

ずっと昔に読んだだけで記憶がおぼろになっているんですけど、向田邦子さんのエッセイに傘の話があったんです。

「胸の手術をして間もない頃で、腕が上に挙げられないんだけど、何かの都合で傘を持って帰っていた。そしたら雨が降ってきて、傘を持っているにもかかわらず腕が挙げられないので傘を差すことができず、ずぶ濡れで歩いてきた。傍からみたら意味不明だろうけど、当の本人には傘を差せない理由があったのだ。」というような内容のお話でした。

*   *   *

世の中の出来事やニュースについてmixiやtwitterではき出されているコメントを見るとゲンナリすることが多いのは、この傘を差さずに濡れながら歩いている向田さんの事情を想像してみようという態度のかけらもないような意見が多いからなのです。

「傘持ってるのにずぶ濡れなんてバカじゃね?」

たぶん、こんなコメントが並ぶような気がする。

*   *   *

短く切り取られた事件事故の記事は、短絡的な反応を誘発します。

「警察官が飲酒して暴行事件を起こした。」
>>「たるんでいる!」、「そんなやつはクビだ。」、「なんで酒なんか飲んでるんだ!」

たしかに飲酒して暴行とはいただけない。でも、報道されていることがすべてではないでしょうし。警察官が暴行に及んだ相手はどういう人だったのか。そこに至るまでにどんなやりとりがあったのか。一部始終を見た上でなら「こんな警察官はクビだ!」と言えるかもしれないですが、もしかしたら同情すべき状況があったかもしれない(し、なかったかもしれない)。

その状況が分からない、ただ短いニュースを見ただけで、厳罰に処せだの緊張感が足りないだのっていう、想像力を欠くたくさんの書き込みが、殺伐としたネット空間を作ってしまう。

「政治家の発言が的を射てなかった。」「芸能人が事件に巻き込まれた。」そんなニュースにも、あるいは傷害事件や殺人事件にしても、短いニュースでは報じられないいろんな背景があるのは間違いない。自分が十分には知り得ていない、報道で伝えられる限りの情報でしかない、その後ろにはもしかしたら想像を超える事情があるのかもしれない。

私なら、そんな限界を知った上でニュースにコメントしたいと思うんですけど、そうじゃない人も多いようで。

*   *   *

傘を持っていながら雨の中をずぶ濡れで歩く人を見て、指さしながら嘲笑するような真似はしたくないし、それは、ネットの上でも同じことだと思うのです。

No comments: